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【人事労務ニュース】 新規学卒者の採用内定取消を行う際の注意点

 いよいよ4ヶ月後には新規学卒者が入社してきますが、急激な企業業績の悪化により、来春もやむを得ず採用内定取消を行わざるを得ない企業もあるのではないかと思います。リーマンショックの際に内定取消が社会問題化しましたが、この問題は労働基準法だけでなく職業安定法の適用も受けるため、まずはそうした法令による規制を理解しておくことが重要です。そこで今回は、採用内定取消を行う際の注意点について解説します。

[採用内定取消の法的性格]
 まずは採用内定の法的性格ですが、そもそも会社が内定者に対して採用する旨の通知を行い、それに対して内定者が誓約書等を提出した時点で、労働契約は成立するとされています。ただし、新規学卒者については学校を卒業するという条件や入社日の到来という始期が付いていることから、最高裁(大日本印刷事件 昭和54年7月20日 最高裁二小判決)では採用内定について、就労の「始期付解約権留保付労働契約」が成立したものとその判断を示しています。
  このように採用内定によって労働契約が成立することから、採用内定取消は労働契約の解約、つまり解雇に当たり、労働契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用されます。そのため企業としては、合理的と認められる正当な理由がなければ採用内定取消を行うことはできないということになります。上記の最高裁判決においても、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。
  上記のことから、採用内定取消の効力は、その取消が合理性・相当性を有する場合のみ認められることになり、客観的に合理的と認められる正当な事由としては、以下のようなものが挙げられます。
 1.条件付き労働解約の場合の条件の成就または不成就
 学校を卒業できなかった場合、入社の際に必要と定められた免許・資格が取得できなかった場合等
2.採用内定取消事由を約束している場合のその取消事由の発生
 健康を著しく害した場合、履歴書や誓約書などに虚偽の記載がありその内容や程度が採否判断にとって重大なものである場合等
3.その他の不適格事由の発生
 犯罪行為を犯しての逮捕、起訴等

[必要な手続き]
 以上のように内定者本人に問題がある場合はともかく、企業の業績悪化により採用内定取消をせざる得ない場合と言うのは大きな問題を抱えることになります。まずはあらゆる手段を尽くし、採用内定取消を避けることが求められますが、それでもなお、採用内定取消を行わなければらならない場合の手続きとしては、大きく労働基準法と職業安定法に基づいた対応が求められます。
  まず、労働基準法関連としては、採用内定取消について同法の第20条および第22条の規定が適用されます。そのため、解雇予告等の解雇手続きを適正に行う必要があり、内定者が採用内定取消の理由について証明書を請求してきた場合は、遅滞なくこれを交付する必要があります。併せて、職業安定法施行規則第35条第2項に基づき、所定様式「新規学校卒業者の採用内定取消し通知書(様式19)」によりハローワークおよび大学・高校等の長に通知することになっています。
  採用内定取消の防止に向けて、国は採用内定取消の内容が厚生労働大臣の定める場合に該当するとき、学生・生徒等の適切な職業選択に資するためその内容を公表することができるとして、企業名公表を行うとしています。新規学卒者にとって、就職は職業生活の第一歩を踏み出す重要な機会であることから、このような事態とならないために、企業としては最大限の経営努力と就職先の確保に向けて具体的な支援をしていくことが求められます。

関連法規
[労働契約法第16条]
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
 [労働基準法第20条]
 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。 
2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
 [労働基準法第22条]
 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
3 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。 
4 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。
[職業安定法施行規則第35条第2項]
2 学校(小学校及び幼稚園を除く。)、専修学校、職業能力開発促進法第15条の6第1項 各号に掲げる施設又は職業能力開発総合大学校(以下この条において「施設」と総称する。)を新たに卒業しようとする者(以下この項において「新規学卒者」という。)を雇い入れようとする者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、あらかじめ、公共職業安定所及び施設の長(業務分担学校長及び法第33条の2第1項 の規定により届出をして職業紹介事業を行う者に限る。)に職業安定局長が定める様式によりその旨を通知するものとする。 
一  新規学卒者について、募集を中止し、又は募集人員を減ずるとき(厚生労働大臣が定める新規学卒者について募集人員を減ずるときにあっては、厚生労働大臣が定める場合に限る。)。 
二 新規学卒者の卒業後当該新規学卒者を労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した後、当該新規学卒者が就業を開始することを予定する日までの間(次号において「内定期間」という。)に、これを取り消し、又は撤回するとき。 
三 新規学卒者について内定期間を延長しようとするとき。


■参考リンク
厚生労働省「新規学卒者の採用内定取消し・入職時期繰下げ等への対応について」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/jakunensha07/index.html

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。