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【人事労務ニュース】 地震により従業員が怪我をした場合の労災保険適用の判断基準

 今回の東日本大震災では、午後の時間帯に地震が発生したため、就業時間中に負傷したという事例が多く見られました。このような怪我等が、労働者災害補償保険法(以下「労災保険」という)の業務災害や通勤災害として認められるか否かについては、事業主の皆様も関心が高いところかと思います。そこで今回は震災によって怪我等をした場合の労災保険適用の判断基準について解説致します。

 労災保険は、従業員の業務上や通勤途上での怪我や病気、障害、死亡(以下「怪我等」という)に対して保険給付を行うことを主な目的としています。まず労災保険の基本として、従業員の怪我等が業務災害であるか否かについては、業務遂行性と業務起因性の2つがその判断基準となります。業務遂行性とは、従業員が使用者の管理下にあるか否か、業務起因性とはその怪我等と業務との間に一定の因果関係があるか否かの判断となります。天災地変の際の業務災害については、原則として業務起因性が認められないため労災とは認定されず、例外的に労災として認められる場合もあるというスタンスがこれまで長く取られてきましたが、今回の震災の発生にあたり厚生労働省から出された文書等を見ていくと、今回は積極的に業務災害として認定していこうとする姿勢を見ることができます。例えば、仕事中に地震や津波に遭い、怪我をした場合には、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができるとしています。

 一方、通勤災害についてですが、通勤災害の判断における通勤とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間の移動を、合理的な経路および方法により行うことをいうとされています。今回の震災ではこの住居の判断に迷う例が多いのではないかと思います。具体的に住居とされる例としては、震災の影響により、避難所生活をされている者、電車が止まっていたため会社近くのホテルに泊まっている者、自宅が倒壊したため一時的に友人宅に居住している者の場合には、それぞれ避難所やホテル、友人宅が住居と考えることになっています。よって、避難所やホテル、友人宅からの通勤途上で怪我等をした場合には、通勤災害とされます。また合理的な経路および方法の判断については、例えばいつもは電車で通勤しているものの電車が止まってしまったために、会社が認めていない自転車で通勤したり、徒歩で通勤した場合であっても、その通勤方法が合理的な経路および方法であれば、その通勤途上の怪我等は通勤災害と認められます。なお、このような場合でも、例えば、通勤の途中で就業や通勤と関係ない目的で合理的な経路を逸れたり(以下「逸脱」という)、通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行った(以下「中断」という)場合には、その逸脱および中断の間とその後の怪我等は通勤災害と認められませんのでご注意下さい。

 今回の震災による就業時間中の怪我等については、実質的にはほとんどの場合で労災として認められるようです。震災に関する労災保険の適用について判断に迷われた際には遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。