お知らせ

【人事労務ニュース】 地震により従業員を休業させる場合の賃金の取扱い

 先日の東北地方太平洋沖地震で、被害に遭われた皆様には、心よりお見舞い申し上げます。皆様のご無事と1日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

 今回の東北地方太平洋沖地震災の影響で、工場の操業を停止したり、営業を取りやめたりする企業が数多く出ています。このように休業を行う際に問題になってくるのが、その際の賃金の取扱いですが、この取扱いについて規定した労働基準法第26条は、賃金の全額を保障することまでは求めておらず、「使用者の責に帰すべき事由による休業については、休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならない」としています。しかし、ここで問題になるのが、どのような場合が「使用者の責に帰すべき事由」に該当するのかという点でしょう。そこで以下では今回の地震に関連した典型的な3つのケースを取り上げ、その賃金の取扱いについて見ていくこととします。

1.
余震の可能性を考慮し予備的に休業を行う場合
 
 震災による直接的な被害が少なく、操業可能な企業が、従業員の安全確保のために休業を行うような場合がこれに該当します。このケースは会社の自主的な判断での休業であることから、使用者の責に帰すべき事由による休業に該当するため、休業手当の支払いが必要になります。

2.
地震や津波の直接的な被害を受けて休業を行う場合
 
 工場の生産ラインが震災によって破壊され、生産が行えないような場合がこれに該当します。このケースは被災により操業できない状況であることから、使用者の責に帰すべき事由による休業には該当せず、休業手当の支払いは必要ありません。

3.
計画停電の影響で休業を行う場合
 
原発事故による電力不足に対応するため実施されている計画停電によって業務を行うことができないことから休業を行うような場合がこれに該当します。このケースでは、停電が実施され、業務を行うことができない時間帯については、使用者の責に帰すべき事由には該当しないため休業手当の支払いは必要ありません。

 今回の震災でもっとも実務上の問題が大きいのは3.の計画停電の影響で休業を行う場合でしょう。実際に停電が行われ、業務を行うことができない時間帯については無給で構いませんが、その他にも様々なケースが考えられますので、更に以下で実務上問題になりそうな2つのケースの取扱いについて確認しておきましょう。

1.
計画停電の前後の時間で休業を実施する場合
 
始業時刻が午前9時、終業時刻が午後6時(休憩時間は正午から午後1時)の事業場において、計画停電が午前10時から午後1時までの3時間行われる場合を例にあげましょう。その際、朝1時間だけ業務を行い、すぐに停電に入るのでは効率が悪いため、午後1時出社とした場合、午前9時から午前10時の1時間についてどのように取り扱うかが問題となります。原則的には休業手当の支払いが必要であるとされていますが、通達においては休業手当の支払いが必要か否かは個別のケースで総合的に判断されるとされていますので、この1時間について無給の取扱いをしようとする場合には、管轄の労働基準監督署に確認する必要があります。

2.
予定されていた計画停電の時間を休業にしていたが、実際には停電にならなかった場合
 
事前に計画停電の予定を確認し、あらかじめ休業としていたにもかかわらず、実際には計画停電が実施されなかった場合については、「計画停電の予定、その変更の内容やそれが公表された時期」を踏まえ休業手当支払いの必要性が判断されます。よってこのような場合も、その時間について無給の取扱いを行おうとする場合には、管轄の労働基準監督署に確認したうえで判断することが必要です。
 

 以上のとおり計画停電に伴う休業の際の賃金取扱いについては、事業場では判断が難しいケースも少なくありません。まずは原則を理解した上で、個別の事案に関しては当事務所あるいは管轄の労働基準監督署までお問い合わせください。

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。